非行少年とボブ・マーリー

日々思ったこと、学んだこと

ボブ・マーリー。Bob Marley。
もう亡くなってますが、ジャマイカのシンガーソングライターで、レゲエの神様と言われている人です。

私は元々、レゲエというジャンルに興味はなかったし、ボブ・マーリーのことは全く知りませんでした。

あれからもう何年も経ちますが、過去に少年の非行事件の付添人を私が担当したときの話です。鑑別所に収容されていた10台後半の歳の少年から、ボブ・マーリーのことを教えてもらいました。以降、ふと思い出して、今でも時々ボブ・マーリーの曲を聴いています。

担当したその少年の事件は、罪名としては比較的軽かったのですが、生い立ちはなかなか壮絶で、心に深い闇を抱えたような少年でした。

少年との鑑別所での面会時の会話は、以下のような感じでした(守秘義務との関係で細かく書けないし、わかりやすいように少しだけ脚色してますが)。

好きな食べ物は?

「特にないです。」

将来の夢は?

「特にないです。」

こういう仕事したいとかある?

「特にないです。」

趣味は?

「特に趣味っていうほどのものはないです。」

普段していて楽しいことは?

「うーん、特に。」

両親のことをどう思ってる?

「別に何とも思ってないです。」

両親とは仲はいいと思う?悪いと思う?

「普通だと思います。」

仲のいい友達は?

「特にこの人というのはいません。」

彼女は?

「いません。」

普段、自由な時間には何してるの?

「特に何も。」

これから何かやりたいことはないの?

「これといって、ないです。」

ゲームは?

「しません。」

音楽とか聴かないの?

「あんまり。あー、でもボブマーリーは好きです。」

ボブマーリー?ごめん知らないんだけど。

「レゲエの人です、外国の。」

そうなんだ。何でボブマーリーが好きなの?

「特に理由はないです。」

レゲエが好きなの?

「レゲエが好きってわけではないです。」

最近の音楽とかは聴かないの?

「聴かないです。」

ありがとう、僕もボブマーリー聴いてみるわ。

「聴いてみてください。」

こんな感じ。

私と少年の仲が悪いから話してもらえないとかではなく(多分)、普通に雑談はできてますし、彼が笑って話すこともあります。ですが、少年自身のことを質問すると、大体こういうやりとりになります。

何を問うても「特にない」という少年。無気力というか面倒くさそうというか。彼自身についての質問に対して積極的に話してくれた中身のある情報は「ボブマーリーは好き」ということだけ。

ボブマーリーは1945年2月6日に生まれて1981年5月11日に亡くなったみたいです。少年どころか私も生まれていません。

なんでそんな昔の曲に興味を持ったの?

「わからないです。」

初めて聴いたのは誰かから勧められたからとか?

「覚えてないです。」

全然主張したがらず、思っていることをほとんど言葉にしない(できない)少年が唯一言葉にした、ボブマーリー。私はそれがどういう音楽なのか興味が湧いたし、彼との話題作りにもなるので、試しに聴いてみました。私がそのときに聴いたのは「No Woman No Cry」と「one love」という2曲。

私は英語があまりできないので聴いただけで歌詞の意味はわからなかったのですが、なんというか、聴いてすごくリラックスできるというか、落ち着く音楽でした。

英語の歌詞わかるの?

「わからないです。」

ボブマーリーの曲の歌詞の意味はわかる?

「わからないです。」

ボブマーリーがどういう人なのかは調べたことはある?

「別にないです。」

その少年は、英語は全然わからないし、ボブマーリーがどういう人なのかとか、歌詞の和訳を調べるような積極的なタイプではありません。

ですが、その少年は、ボブマーリーの曲は好きらしい。
歌詞や時代背景も知らないのに、少年に伝わるものがあったんだと思いました。

ボブマーリーの曲で一番好きなのは?

「one loveです。」

どういうところが好き?

「特に理由はないです。」

one loveの歌詞の和訳をネットで調べたところ、偶然なのか、少年の境遇と重なる部分があり、私はちょっと驚きました。

one loveの出だしはこんな歌詞(下段は和訳)。

One love, one heart
ひとつの愛、ひとつの心

Let’s get together and feel all right
ひとつになろう、大丈夫だから

Hear the children crying
子どもたちの泣き声を聞こう

Hear the children crying
子どもたちの泣き声を聞こう

Sayin’, Give thanks and praise to the Lord and I will feel all right
神に感謝し賞賛し、大丈夫だと感じよう

Sayin’, Let’s get together and feel all right
ひとつになろう、そうすれば大丈夫

Let them all pass all their dirty remarks
汚い言葉は全部気にしないでいよう

There is one question I’d really love to ask
本当に聞きたい質問が1つある

Is there a place for the hopeless sinners who has hurt all mankind just to save his own?
自分のためだけに全人類を傷つけた、希望のない罪人のための場所があるのかどうか?

凄まじい境遇で生まれ育ち、心に闇を抱えた少年。

ボブマーリーの音楽はそんな少年にとって唯一の心の拠り所になっていたのかもしれない、音楽の力ってすごいなぁ、とか感じたエピソードでした。

コメント

  1. […] そういえば、以前に紹介しましたボブ・マーリーさん。 […]

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